中国語音節表記ガイドライン[平凡社版](2011年8月1日公開)ガイドラインの趣旨について近年、新聞、映画、アート、出版、音楽その他多くの領域で、中国の人名・地名のカタカナ表記がなされるようになってきました。「フー・チンタオ(胡錦濤)」や「チャン・イーモウ(張芸謀)」といった表記も、今や私たちにとって馴染み深いものになりつつあります。しかし、カタカナ表記の方法それ自体は必ずしも統一されていません。たとえば、今言った「張」姓ひとつとっても、メディア上には「チャン」と「ジャン」という二つの表記が並列しています。人名検索の際の不便を考えれば、こうした事態は決して望ましいものではありません。また、翻訳書においても、中国音のルビの単純なミスが散見されます。これもやはり望ましくありません。 とはいえ、この種の表記のバラつきやケアレスミスは、信頼に足る表記ガイドラインが誰にでもアクセスできる形で存在していれば、ほとんど未然に防げるものです。そこで今回、中国語研究者の池田巧氏(京都大学人文科学研究所准教授)の監修の下、平凡社のご厚意をいただき、新しいガイドラインを同社サイト上で公開する運びとなりました。現場の出版・メディア・教育関係者の方に、広く利用していただければ幸いです。 公開するのは、以下の二種類です(ファイルはすべてPDF)。 (α)メディア向け表記ガイドライン http://cn.heibonsha.co.jp/media.pdf その早見表 http://cn.heibonsha.co.jp/media_simplified.pdf (この二つのデータの内容は同一です) (β)語学教育向け表記ガイドライン(池田氏が2009年に学会で発表したもの。(α)の原案) http://cn.heibonsha.co.jp/edu.pdf その早見表 http://cn.heibonsha.co.jp/edu_simplified.pdf (この二つのデータの内容は同一です) (α)はメディア上での使用を想定した、より実務的なものです。(β)は語学教育上の使用を想定した、より正確さを重視したものです。出版・メディア関係者の方は(α)を、語学教育の現場では(β)を、それぞれお使いください。 運用上の注意・本ガイドラインは当初β版として運用し、twitterおよびメールにてさまざまなご意見をいただきました(2011年5月26日〜7月31日)。そのすべてのご意見を生かすことはできませんでしたが、若干の修正を加えたうえで、2011年8月1日に正規版としてリリースしました(β版の段階でダウンロードされた方も、改めて正規版をダウンロードしていただきますようお願いいたします)。・言うまでもなく、本ガイドラインには強制力はありません。最も中立的で無難な表記をしたいときの「参考資料」として使用されることを念頭に置いています。ただ、外国語表記があまりにバラバラになるのは公共的には望ましくないので、もし特別のこだわりがなければ、ぜひ本ガイドラインの使用を検討していただければ幸いです。 ・本ガイドラインは、既存の読み方を否定するものではありません。たとえば、章子怡を「ジャン・ズーイー」ではなく「チャン・ツィイー」と表記するのはすでに慣行になっているので、今さらその読み方の変更を求めることはありません。本ガイドラインはあくまで、これから新たに加わる中国人名・地名の表記のための参考資料だと考えてください。 ・学者のなかには「中国語のカタカナ表記そのものが問題で、あくまでこれまで通り日本語の漢字音で読むべきだ」という意見もあります(実際、漢字の「読み」について、日本にきわめて重層的な歴史があることを考えれば、漢字の中国語読みがなし崩し的に広がっていくことには、確かに問題があります)。とはいえ、今のメディア状況を見る限り、カタカナ表記の傾向は今後強くなることはあっても、弱くなることはないと思われます。本ガイドラインは、社会のこの大きな流れを踏まえて、少しでも現実の改善に役立てばという趣旨で作成されています。 ・本ガイドラインの表記については、専門的な根拠があります。詳しくは、池田巧氏からのコメントをご覧ください。 ・本ガイドラインについてのお問い合わせは、今回のコーディネーター福嶋亮大宛にメール(f-ryota@goo.jp)をお送りください(あるいは、語学教育向け表記ガイドラインに記載されている池田巧氏のメールアドレスまでご連絡ください)。 福嶋亮大(文芸批評家)、2011年8月1日
池田巧氏のコメント1 Q:中国語には濁音がないと習ったのですが、無気音を濁音で表記しているのはなぜですか?関連文献『東方』364号(2011年6月、東方書店)福嶋亮大「中国語音節カタカナ表記ガイドラインについて」 池田巧「現代中国語のカタカナ発音表記法、あるいは文化的雪かきについて」 『東方』366号(2011年8月、東方書店) 藤野彰「中国人名の現地読み──メディアの現状と課題」 千島英一「栃」の中国語音はliそれともxiang ?──和製漢字の中国語音をめぐって」 『東方』367号(2011年9月、東方書店) 明木茂夫「社会科地図帳中国地名カタカナ現地音表記とその基準について」 上記ファイルはすべてPDFです。東方書店のサイト→http://www.toho-shoten.co.jp/ |
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